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学位論文

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  2. 2021年度修論要旨

修士課程2年  李 舒婷

修論題目:「博物館における遠隔教育に関する研究 ―定義の再検討と持続可能性について―」

 遠隔教育という教育形態が従来の地理上の制約や境界を越えて教育機会を拡大し、博物館でも取り組まれており、ICT環境の整備に伴い、博物館における遠隔教育はより広がっていく可能性があると考えられる。しかしながら、博物館における遠隔教育に関する研究が乏しく、定義、分類もなされていないとともに、博物館において活発的に遠隔教育を取り組まれた時期があったが、まだ普及していない。
 そのため、本研究では、文献調査、アンケート調査、聞き取り調査、現場体験を通じて、博物館における遠隔教育とは何かを明らかにし、日本の博物館における遠隔教育の発展過程を追うとともに、遠隔教育を行う博物館を考察したうえで、博物館における持続可能な遠隔教育のために何が必要なのかを解明することを目的とした。
 序章では、研究の背景、研究の目的と意義、研究方法、用語の構成、構成について記述した。
 第1章では、遠隔教育の歴史と定義、分類、博物館と遠隔教育のつながりを整理し、博物館における遠隔教育とは何かを説明するために、コミュニケーションの有無による同期型と非同期型の2つを分けられたうえで、遠隔授業、学習支援コンテンツ、ライブ配信の3つの取り組みを分けられ、紹介し説明した。
 第2章では、遠隔教育と博物館における遠隔教育に関する先行研究、事例報告、過去の実施状況などを整理したうえで、これまで実証から、博物館による遠隔授業の有効性、学習コンテンツの必要性が明らかになってきた。また、遠隔教育を博物館で取り入れる理由として、有効な学習手段、物理的・時間的制約からの解放、教育機会の拡大、物理的な博物館で実現できない体験の提供、多様化する学習ニーズに応えることなどのメリットが示された。しかし、博物館における遠隔教育の全体像、近年の動向、遠隔教育の発展、現在の遠隔授業の実態に関する研究が乏しく、博物館における遠隔教育の定義、分類もなされていないということを確認した。
 第3章においては、ICTの進化に伴い博物館における遠隔教育がどのような変化が起こってきたのかについて、遠隔教育の歴史と発展を中心に振り返るとともに、現在の状況を整理した。博物館における遠隔教育は多種多様な形態であるが、遠隔授業、学習支援コンテンツ、ライブ配信を中心に博物館における遠隔教育の歴史と発展を明らかにした。技術革新とインターネットの普及に伴い、博物館における遠隔教育は多様化しているが、まだ普及していないとともに、遠隔教育が活発に行われた時期があったが、継続していないということが明らかにした。一方、遠隔教育を推進する政策などをまとめ、デジタル化の推進や学校教育の変革に伴い、今後、博物館における遠隔教育の推進や発展の可能性を見出すため、持続可能な遠隔教育に必要な要素を明らかにする必要があると考えられる結果を得た。
 第4章、第5章では、聞き取り調査の対象とした御船町恐竜博物館、海の中道海洋生態科学館、長崎歴史文化博物館、名古屋市科学館という4館の概要とそれぞれの館における遠隔授業、学習支援コンテンツ、ライブ配信について目的、経緯、実施状況などを説明したうえで、現場見学を通して、遠隔授業の実態を明らかにした。
 第6章では、多くの水族館における遠隔教育プログラムの実施を寄与した日本財団「海と日本プロジェクト」とその博物館における遠隔教育にかかわる「海なぞ水族館」と「Virtual Ocean Project」を通じて、遠隔教育の推進や発展において外部組織の支援の重要性を確かめた。
 第7章では、ここまでの結果を統合した考察を行った。まず、歴史発展、現状と課題、事例から、博物館における遠隔教育の定義を再検討し、そして「博物館における遠隔教育とは、情報通信技術を活用し、博物館から離れた場所にいる人々に行う教育サービスである」と定義して試みた。また、博物館における遠隔教育の持続可能性について考察した。その結果、博物館における持続可能な遠隔教育のために必要な要素として、「博物館における遠隔教育の位置づけ」、「効果的な遠隔教育の開発」、「外部組織の支援」が必要あると結論づけした。
 終章では、研究のまとめを行い、本研究で至らなかった点を今後の課題として提示したうえで、博物館における遠隔教育の持続可能性を検討する際に用いうる視点を提示し、今後の展望に位置づけた。

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