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- 2020年度修論要旨
修士課程2年 高 一欽
修論題目:「公立博物館における教育普及活動と市民参加の形態に関する研究 −16館の年報の比較を通して−
」
【キーワード : 公立博物館、教育普及活動、市民参加】
博物館における市民参加の重要性については、市民の参加や運営を軸とする博物館三世代論という理論面からの提唱のみならず、教育機関として市民に開かれるのを重視するという文部省や日本博物館協会が発表した法令・政策の変遷もあった。また、自由時間の増大や高齢化の進行などに伴い、人々の学習意欲は高まり、生涯学習という社会の要請が確認できる。以上の背景のもとで、本論文では、教育普及活動が積極的に展開している日本全国の公立博物館を対象に、館使命・理念で市民参加を直接謳っている館を絞り込み、年報から教育事業のデータを整理し、最近2年間の教育普及活動の開催形態と市民参加の形態を明らかにする上で、今後市民参加のあり方について議論した。
第1章では、博物館理想像の変遷による市民参加を重視しつつあることを糸口に、市民参加における理論面からの提唱、法令・政策面の動向および、社会的な要請という背景を概観した上で、教育普及活動の開催形態と市民参加の形態がまだ明らかにされていないという課題を提出した。そして、課題解決に向けて本研究の目的や意義、調査の方法や用語の定義を記述した。
第2章では、これまでの博物館における教育普及活動の沿革と活動の開催に関する先行研究をまとめた上で、それらの研究がまだ明らかにしていない点を整理した。さらに、本研究が教育普及活動の形態を把握するための分類モデルを紹介し説明した。
第3章では、現在までの教育普及活動における市民参加に関する先行研究を概観した上で、先行研究が市民参加の形態をまだ把握していないという課題を指摘し、市民参加の形態を研究する必要性を述べた。さらに、本研究が市民参加の形態を把握するためのモデルを紹介し説明した。
第4章では、本研究の調査対象館における教育普及活動および市民参加の形態を最近2年分で整理し結果を提示した。その結果は全体や個別それぞれ比較しやすいように、表、棒グラフ、円グラフという形で記述した。調査対象館の詳細は、兵庫県立美術館、福井県立恐竜博物館、大分県立美術館、ミュージアムパーク茨城県自然博物館、滋賀県立琵琶湖博物館、長崎歴史文化博物館、大阪市立自然史博物館、青森県立美術館、埼玉県立近代美術館、栃木県立博物館、三重県総合博物館、東北歴史博物館、千葉県立中央博物館、埼玉県立歴史と民俗の博物館、兵庫県立考古博物館、ふじのくに地球環境史ミュージアム、合計16館である。
第5章では、第4章のデータの結果に基づいて館種別、地域別、博物館設立年代別という三つの方向を基準にして、基準ごとに比較しながら、教育普及活動と市民参加の形態の傾向性を把握した。まずは、館種別は総合系、美術系、歴史系、自然史系という基準で比較し分析した。次に、地域別は東北地方、関東地方、近畿地方、九州地方という基準で比較し分析した。最後に、博物館の設立年代別は2000年以前開館、2000年以降開館という基準で比較し分析した。
最後の第6章は結論で、第5章の分析結果をふまえ、現在の教育普及活動の開催形態は主に博物館からの講義型であり、市民参加はまだ受動的な参加形態にとどまっているという傾向性を明らかにした。そして、教育普及活動の開催における予算・人員不足の課題と市民参加における市民コミュニティ構築の課題をそれぞれ議論しながら今後市民参加の方向性について、参加対象、参加内容、参加形式、参加範囲という4つの面から検討した。