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- 2020年度修論要旨
修士課程2年 岡田 夕里子
修論題目:「地方の公立文化施設における自主事業運営のあり方―札幌市教育文化会館を事例として―」
【キーワード : 公立文化施設、貸館事業、自主事業、公立文化施設の事業運営、外部連携】
現在、日本国内には2,000もの公立文化施設が存在している。しかし、多くの施設が自主事業運営に際して専門的人材不足という問題に直面している。音楽ホールでは人材不足に対していくつか有効な解決策が示す事例が報告されているものの、演劇分野、さらに地方の公立文化施設で実施可能な方法となると現時点での事例調査は不十分である。また、現状では外部との連携という新たな取り組みに関する事例や作品創造に力を入れる施設の事例報告に偏っており、人材不足に悩む公立文化施設や貸館事業中心の施設での自主事業運営の実態に関する研究が不足している。
したがって本研究は、札幌市教育文化会館の事例研究を通して、地方の公立文化施設における自主事業の現状を明らかにし、貸館事業中心の施設における新たな自主事業運営のあり方を示すことを目的とする。
本研究では、文献調査、インタビュー調査、実地調査の3つの研究手法を用いた。文献調査では、公立文化施設全体の運営状況の把握、本研究での対象施設の特徴を明らかにするために、札幌市教育文化会館を運営する公益財団法人札幌市芸術文化財団が発行する事業年報や情報誌、一般社団法人地域創造や公益社団法人全国公立文化施設協会等が発行する調査報告書を用いた。インタビュー調査は、自主事業全体の運営方法から個々の事業運営の詳細を把握することを目的として、札幌市教育文化会館事業部事業課事業係の職員の方への2度のインタビューを実施。実地調査では、2019年9月6日~2020年1月9日にかけて、札幌市教育文化会館で実施された「こども演劇ワークショップ」に見学者として参加し、実際の事業運営の様子やワークショップ参加者の観察を行うことで、実際の自主事業の運営における成果と課題を捉えることを試みた。
調査の結果、札幌市教育文化会館は、貸館事業が施設運営の中心に据えられ、設置目的達成のために足りない部分を補完するという形で、自主事業が存在するという自主事業の実態を明らかにした。さらに、自主事業運営において、地元のアーティスト団体との事業単位での連携や、札幌市内あるいは、札幌市芸術文化財団内の公立文化施設間で担当事業分野の棲み分けという方法をとっていると指摘。専門的人材不足という問題に対して、地域内の施設間での事業分野の棲み分けや、自主事業運営時の専門家との役割分担という手法は、貸館事業中心の他の公立文化施設にとって、取り入れやすい手法であると結論付けた。
今後は、本事例の手法が他の公立文化施設でも実現可能か、採用した場合の障壁や実践後の成果についての研究や、札幌市内での公民をこえた文化施設連携の可能性を探る研究が望まれる。