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学位論文

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  2. 2019年度修士論文要旨

修士課程2年  許 開軒

修論題目:「江戸時代におけるカラスの分類、生態および人との関わり」

   【キーワード : 江戸時代、カラス、博物誌、諸国産物帳、農書】

 本研究の目的は,江戸時代においてカラスがどのように観察,認識され,どのように人々と関わりあいつつ生きてきたのかを,文献史料を通して解明することである。
 序章では,研究の背景,先行研究の概要,研究の目的,研究方法と史料概要,構成及び凡例について述べた。本稿では文献資料を中心に調査を行い,主に江戸時代の博物誌,産物誌,農書及び幕府・藩政史料を用いた。
 第1章「江戸時代におけるカラスの分類」では,江戸時代におけるカラス類の名称を現代の種名に同定することを目的として,博物誌史料と産物誌史料におけるカラス類の名称について検討を行った。博物誌史料において,一つの名称が史料によって違う種に該当する場合や,特定の種に同定することが困難な場合もあるが,各名称が対応する種を史料ごとに把握することができた。また,博物誌史料で得た知見を踏まえて産物誌史料におけるカラス類の名称を検討した結果,一部の史料からカラス属のハシボソガラス,ハシブトガラス,コクマルガラス,ワタリガラスについて確認できたが,多くの史料に記載された名称は種レベルまで同定できず,当時の一般民衆によるカラスに対する認識と分類は博物誌ほど厳格ではないことが推測できる。
 第2章「江戸時代におけるカラスの生態」では,江戸時代におけるカラス類の生息実態を把握することを目的として,博物誌史料と産物誌史料を中心に,日本に生息するカラス属のハシボソガラス,ハシブトガラス,コクマルガラス,ミヤマガラス,ワタリガラスの5種の行動と分布域に関する記述について検討した。
 行動に関して,ハシボソガラスとハシブトガラスの採餌行動と貯食の習性,縄張り争い,声真似の能力などが記録されていることが確認された。また,ワタリガラスはハシブトガラスとハシボソガラスと区別され,体格が大きく,様々な鳴き声をもつものとして記録された。
 分布域に関して,史料が残っていない地域または希少鳥類以外記録されなかった地域もあるため,江戸時代と現代の分布域の違いを解明することは困難であるが,江戸時代においてコクマルガラスとミヤマガラスの分布は九州に限られ,ワタリガラスは北海道以南まで渡来したことが確認できた。また,ハシボソガラスとハシブトガラスの生息環境に関して,江戸時代においてハシボソガラスは市街地に多く,ハシブトガラスは市街地に少なく,山林に多いことが確認できるが,一部の地域では,2種の混在または市街地におけるハシブトガラスの優占が記録された。
 第3章「江戸時代におけるカラスと人との関わり」では,江戸時代におけるカラスと人との軋轢及び人によるカラスの利用を把握することを目的として,農書,幕府・藩政史料,本草書および東京都内の近世遺跡の発掘調査報告書におけるカラスに関する記述について検討を行った。カラスと人との軋轢について,農書を確認したところ,カラスは江戸時代においても主な農業害鳥であり,具体的な被害には野菜,穀物への直接な食害,生育の破壊のほか,肥料や動物質産物の食害がある。防除法として,耕地の維持や農法の改善,案山子を立てること,追い払うことなどが確認できるが,捕獲や捕殺による駆除の記録はみられなかった。一方で,幕府領と諸藩では,17世紀半ばから19世紀にわたってカラス及びトビ,ウなどの鳥の駆除または巣払いが行われた。巣払いの命令は繁殖期に,駆除は巣立ち後の時期に合わせることが多いことが確認できた。
 カラスの利用方法に関して,料理本,本草書,農書を確認した結果,江戸時代におけるカラスの利用の事例は多くないが,肉を食用と薬用,フンを肥料として利用することが確認できた。また,将軍の狩猟記録および東京都内の武家屋敷遺跡からカラスが確認でき,江戸近辺でカラスが狩猟されて利用されたことが考えられる。
 終章では,研究のまとめを行い,本研究で至らなかった点を今後の課題として提示したうえで,生物の過去の実態を検討する際に用いうる視点を提示し,今後の展望に位置付けた。

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