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学位論文

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  2. 2019年度修論要旨

修士課程2年  神田 いずみ

修論題目:「地域の博物館における郷土資料館の特徴―札幌市内の郷土資料館の事例から―」

   【キーワード : 地域の博物館、郷土資料館、博物館の設立経緯、教育普及活動】

 地域の自然や歴史、文化をテーマとする博物館に対する研究の蓄積や社会からの期待がある一方で、学芸員を置かない地域の博物館に関する議論が少ないことを背景に、本論文では学芸員を置かない地域の博物館を郷土資料館と呼称し、特徴を明らかにした上でその役割や可能性の検討を試みた。特徴の分析に当たっては、地域の博物館に関する先行研究の整理や、事例とした博物館に関する文献調査や現地調査、またそれらの結果の比較を行った。
 第1章では地域の博物館の役割に関する議論を特に教育の側面から整理した。現在の地域の博物館に関する議論に大きな影響を与えているのは伊藤寿朗によって整理された地域博物館論であり、その一方で郷土資料館に関する研究は少ないことを確認した。
 第2章では地域博物館論の内容を整理した。地域博物館(地域志向型博物館)とは地域の課題を軸に学問分野を総合化し、市民の自己教育力の育成を目指す博物館であり、学芸員のもと、市民の幅広い興味関心に対応した段階的な教育活動を展開することを確認した。
 第3章では、学芸員を置く地域の博物館として札幌市博物館活動センターといしかり砂丘の風資料館を取り上げ、その沿革と現在までの活動、現状と課題を記述した。また二館と地域博物館論との比較を行い、二館はともに地域志向型博物館の特徴を多く備えることを指摘した。
 第4章では定山渓郷土博物館、簾舞郷土資料館、札幌村郷土記念館、平岸郷土史料館の4館を事例として各館の沿革や現在までの活動、現状と課題、展望を記述した。
 第5章では前章までの事例を比較し、郷土資料館の特徴を分析した。郷土資料館は地域の変化を背景に、地域の資料を保存することを目的として地域住民により建設された。現在の目的は地域の歴史に関する資料の保存と伝達にあり、その目的のもとで地域住民による研究や地域住民から地域住民への教育普及活動が行われる事例が見られる。設備は展示室と収蔵庫が主であり、現在の運営については事例とした館の多くで地域住民が主体となって行われている。また郷土資料館は来館者の減少や広報の機会の少なさの他、運営団体の高齢化や人員不足を課題としている。以上を郷土資料館の特徴として明らかにした。
 第6章では、郷土資料館の果たす役割や可能性を検討した。資料の現地保存により資料価値を高めるとともに地域の文化の保存や振興を保障すること、資料保存および地域住民から地域住民への歴史や文化の伝達が地域の歴史の継承の一環として地域の発展や連帯を促し得ること、他の博物館と資料や情報を共有することで、他の博物館の研究や教育普及活動を多様化すると同時に自館での研究や教育普及活動を発展させ、また来館者減少や広報といった課題をも改善し得ることを挙げた。
 終章では各章のまとめを行い、調査範囲の拡大や郷土に関する検討の必要性を課題として挙げた。また郷土資料館を研究することの困難を予想した上で、郷土資料館独自の特徴を明らかにすることが郷土資料館の今後のあり方を考える上で役立つだけでなく、他の地域の博物館を相対化し地域の博物館に関する議論全体を深めることに繋がるとした。

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