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学位論文

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  2. 2019年度修論要旨

修士課程2年  青木 彩峰

修論題目:「地域社会における公立文化施設の“劇場像”成立について:松本市・まつもと市民芸術館を事例として」

   【キーワード : 公共劇場、劇場像、地域合意形成、事業発信、演劇教育】

 本研究では、先行する劇場研究/運営実践において大きなトピックであった、劇場の社会的役割・性格づけをめぐる議論に対して、「社会が劇場をどのような存在(=すがた)だと見なしているか」、つまり社会における「劇場像」をめぐる話題だとラベリングした。
 今日、劇場に対する社会的期待は高まっているが、一方で地方部の劇場では施設個々の「劇場像」が充分に確立されていないという課題も見られる。
 この現状を打破するために、具体的な劇場と地域との関係を扱った事例研究を積み上げ、多様な「地域社会における劇場像」のモデルを提示していくことが必要である。そのために本研究では長野県松本市のまつもと市民芸術館を中心事例として、地域社会における、公立文化施設の「劇場像」成立過程を明らかにすることを目的とした。 本論文は5章構成である。
 第1章では研究の背景と目的、事例と研究手法を紹介した。
 第2章では事例施設の設置計画段階と、同時期に起きた計画に対する市民間の議論を振り返ると共に、開館後2年間設置された市民による審議機関「運営審議会」の活動にも注目し、地域内各主体が持つ「施設像」の摩擦とその解消の手続きについて検討した。
 3章では、串田芸術監督(2020年現在)の「劇場像」が、自主事業においてどのように発信されたのか、2つの特徴に着目して論じた。1つ目の特徴「上演空間利用」では、固定的な施設に活動を紐づきながら、一方で自由度の高い施設空間利用、あるいは地域内の多様な空間を利用する上演活動を包摂したことで、「劇場像」を拡張したことを明らかにした。2つ目の特徴「積極的な外部者参加」では、地域外部者の活動拠点として松本を位置づける串田の発言を踏まえ、別方向から地域に作用した2事例から考察した。
 第4章では視点をまつもと市民芸術館単館から地域全体へと広げ、松本市域内で行われている3つの演劇教育事業「まつもと演劇工場(まつもと市民芸術館)」・「ぴかぴか芝居塾(松本演劇連合会)」・「Let's Playワークショップ(長野県松本文化会館/銀杏座)」に着目した。そして目的や対象者などの階層が異なる各事業間に生じた補完関係を指摘し、複数の拠点施設によって支えられている松本地域の文化活動のように、広域的な視点に立った「劇場像」が必要であると結論づけた。
 第5章では論文全体を総括した上で、2点の論点「施設命名と「劇場像」規定」・「先行研究が向けた視線と“場”の蓄積への考慮」を再検討したのち、今後の劇場研究に対する3点の展望、「“場”・“機構”としての劇場維持」・「地域発信の文脈づけ」・「地域課題へのアプローチ」について指摘し、結びとした。

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