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学位論文

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  2. 2019年度研究論文要旨

博士課程3年  卓 彦伶

研究論文1(2017年度提出)
「1970年代以降の博物館における連携活動の変遷について―生涯学習施策と学会誌の分析を中心に―」

 【キーワード :  博物館連携、対話と連携、生涯学習施策】

 本研究では、法令など施策と学会誌を通して1970年代以降の博物館における連携活動の実態と研究動向の全体像の把握を行なった。
 社会的条件の変化のもと、生涯学習施策の変遷がみられ、博物館現場においてもその影響がみられる。また、1970年代以降の博物館における連携活動の実態と研究動向を概観することによって、各時代に博物館が重点に置かれる連携活動が明らかになった。
 1970年代は生涯学習体系へ移行するための施策整備が行われた。1980年代になると、ボランティア活動の導入によって施設が活性化すると提唱された。博物館では、1997年以降ボランティア活動を導入している館が増加し、2008年以降は全体の3分の1の館が受け入れている。近年では、ボランティア活動を博物館での市民参加活動として位置付ける傾向がみられる。
 また、90年代になると、学校週五日制や総合的な学習時間の導入などの教育改革によって博学連携の推進がみられる。博学連携が古くから行われているが、近年では学校側と博物館側の相互の働きかけが多くみられる。2000年以降、指定管理者制度の導入や地域の財政難によって、地域における社会教育施設が地域課題の解決策として期待され、博物館外部との連携が求められている。また、2003年と2011年に「博物館の設置及び運営上の望ましい基準」の2回改正を通して、博物館の連携対象は社会教育施設や行政機関から民間事業者へ拡大していることがうかがえる。さらに、2014年に地方創生の理念が提出され、地域の観光関係の団体との連携が必要になってくる。各施策のもと、博物館現場での活動も反映されていることがうかがえる。
 以上のように、各時期における経営課題に対応するために連携の必要性が提唱されてきている。しかし、連携することによって、最終的にどのような目標を想定することは議論されていない。また、博物館と外部団体との連携が一層求められている現在、博物館と外部連携するべき事業を明らかにする必要があると考える。

研究論文2(2019年度提出)
「博物館の地域連携事業における社会的インパクト評価の導入に関する実践的研究―「鳴く虫と郷町」のロジック・モデル構築を事例にー 」

   【キーワード :  地域連携、社会的インパクト評価、ロジック・モデル】

 本研究では、日本における社会的インパクト評価の評価手法と特徴をまとめた上で、伊丹市昆虫館の地域連携事業「鳴く虫と郷町」を対象に、社会的インパクト評価のためのロジック・モデルを構築した。
 内閣府社会的インパクト評価検討ワーキング・グループでは、社会的インパクト評価について、「事業や活動の短期・長期の変化を含めた結果から生じた『社会的・環境的な変化、便益、学び、その他効果』を定量的・定性的に把握し、事業や活動について価値判断を加えること」であると定義している。その評価手法として、ランダム化比較デザイン(Randomized Controlled Trial:RCT)、社会的投資収益率(Social Return on Investment:SROI)、ロジック・モデルの3つが最も用いられることが明らかになった。そのうち、ランダム化比較デザイン(RCT)は、厳密な評価が可能であるが、博物館の地域連携事業は外部要因を取り除くことと、その専門性とコストが高さから、継続的に実施することが難しいと考える。また、社会的投資収益率(SROI)は、内部に向けた事業改善という目的より、外部への事業成果のアピールという性格が強い。本研究では、博物館の地域連携事業における多様なステークホルダー間の共通言語の醸成や事業改善のツールとしての社会的インパクト評価の機能に重点をおいて導入した。そのため、本研究はロジック・モデルのインパクト評価への応用を手法として選定した。
 また、「鳴く虫と郷町」に対する社会的インパクト評価を実施する目的として、次の「事業効果を検証することを通して『鳴く虫と郷町』における課題発見および事業改善のツールとなる」、「事業効果を示すことによって、各ステークホルダーに『鳴く虫と郷町』に参加するメリットを理解してもらう」ことの2点を挙げられる。
 博物館は館種によってそれぞれ掲げているミッションが異なるが、博物館の地域連携事業は地域に対して存在意義を自明するという意味合いを含めている。そのため、本研究では「鳴く虫と郷町」の地域社会への影響をアウトカムの中心において考えた。「鳴く虫と郷町」に社会的インパクト評価を導入することによって、事業における多様なステークホルダー間の共通言語の醸成や事業改善のツールになると考える。さらに、社会的効果を明らかにすることによって、関係者のモチベーション向上や事業の新たな展開につながることが期待される。

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